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最高裁判所第三小法廷 昭和28年(あ)4395号 判決

主文

本件各上告を棄却する。

理由

被告人田中肇の弁護人登政良の上告趣意は、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。被告人原金蔵の弁護人奥江秀一の上告趣意第一点は、判例違反を主張するけれども、原判決が所論の判例と相反する判断をしたものでないことは判文上明らかであるから、所論は理由がない。右両論旨の共通して主張するところは、連合国の軍事占領下にあった南西諸島は刑法一四九条の「内国」ではないから、奄美大島、沖縄等に流通している連合国占領軍発行のB型円表示補助軍票百円券の偽造等に関する本件犯行に同条を適用した第一審判決を肯認した原判決は違法であるというに帰する。

しかしながら、奄美大島、沖縄等の南西諸島が終戦前において日本国の領土であったことはいうまでもなく、その後連合国軍の占領下にあった当時において、わが国の政治上又は行政上の権力の行使が右地域に停止されていたことは所論のとおりであるが、ポツダム宣言、降伏文書等によるも、わが国がこれらの地域に対する領土権を喪失したことを認めしめる根拠はないのであるから、奄美大島、沖縄等の南西諸島は連合国軍の占領下においても依然として日本国の領土であったものといわなければならないこと、原判決の説示するとおりである。そして、わが領土に流通する外国通貨の公信力は本土における取引とも密接の関係を有するこというまでもないのであるから、本件犯行に対し、内国に流通する外国通貨に関する犯罪として刑法一四九条を適用したことは正当であって、原判決には所論の違法はない。弁護人奥江秀一のその他の上告趣意は刑訴四〇五条の上告理由に当らない。

また記録を調べても同四一一条を適用すべきものとは認められない。

よって同四〇八条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 小林俊三 裁判官 本村善太郎 裁判官 垂水克己)

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